第4章 出逢い、そして追放
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それはエフィーリアがいつものように森を散歩していたときのことだった。 (あれ…………?) 今、何かが視界の端を掠めたような気がする。 不思議に思って、エフィーリアは辺りに視線を巡らす。先ほど何かが掠めたように思う場所には殊更しっかりと目を凝らす。 すると視力のいい彼女の目は、しっかりとそれを捉えた。 彼女は駆け寄る。 (死んでる………!?) ふと頭をよぎった不吉な予感をとっさに追い払い、あわててエフィーリアは、その少年の脈を取る。微弱ではあるが、しっかりとそれは生の鼓動を刻んでいた。どうやら気を失っているだけらしい。 「よかった…………」 心の底から安堵したからか、その少年を観察する心の余裕ができて、彼女はまじまじとその美しい少年を見詰める。 その少年は、芸術品のように美しい造りをしていた。 極上の絹糸のようにさらさらとした金の髪は、扇状に土の上に広がっている。地面の暗い色に、それは金色に照り映えていた。髪はちょうど肩に触れるくらいの長さまである。顔の部分部分はどれもかもが完璧の造りだった。すっと通った鼻筋、形のいい唇。閉じられた瞳は、流麗な線を描いている。瞳は閉じられたままだが、きっと開けば世にも美しい宝玉のような瞳が現れるに違いない。 エフィーリアは恍惚とその少年を見詰め続ける。きっと年の頃は17くらいだろう。どうやら「人間」のようだと、その耳の形を見て初めてエフィーリアは気付く。 よく見ると、少年は所々にかすり傷を負っていた。その美しい顔は、泥でまみれていて、金髪の幾筋かは汗で少年の顔に張り付いていた。 どうやらただならぬことがあったらしい。 慌てて少年の傷の一つ一つを調べてみるも、大した傷ではないらしいことがわかり、ほっとする。 でも、この少年をこのままここに放っておくわけにはいかなかった。ここは森の獣たちの通り道。今まで食べられなかったのは、ひとえにこの少年の運のよさのおかげだろう。 (どうしよう………) 真剣にエフィーリアは思い悩む。このままこの少年をここに放っておけば、みすみす見殺しにすることになる。それだけはエフィーリアの良心が絶対に許さなかった。 しかしエルフの森に人間を連れ込むことは禁忌とされている。人間をエルフの森に連れ込むと、神聖な森が穢されると信じられているのだ。 故に、エフィーリアは悩んでいた。きっとばれたらただでは済まされない。最悪の場合、追放という事態だって有り得るのだ。 でも、人を見殺しにすることはできない。見殺しにしてしまえば、間違いなく自分を一生涯責め続けることになることは間違いなかった。 「よし、わたしの家に連れて帰ろう」 エフィーリアは決心した。
もっとも、どのようにして自分よりも重い少年を自分のうちまで運ぶかは問題であったのだが。 |