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 その少年は薄く目を開けた。
 エフィーリアは心の中でうれしい悲鳴をあげ、そっと少年の瞳を覗き込む。彼女の楽しみは、薄情にも、少年が元気になること自体よりも、少年が元気になってくれてその少年の宝玉のような瞳をこの目で拝めることにあった。
(きれ………い………)
 その少年の瞳は、晴天の空の蒼をそのまま溶かし込んだかのような透明で鮮烈な水色だった。
 宝玉のようなその瞳は、何度か瞬きする。自分がどうなったのかわからない、そんな風だった。
 あわててエフィーリアは釈明する。何も悪いことなどでいていないのに、なぜかそんな気分だった。だから、自然と早口になる。
「あのね、貴方、森の中で怪我をして倒れてたの。あそこは森の獣たちの通り道だから、あんなところで倒れてると食べられちゃうよ?」
 少年は数度瞬きする。そして思考を巡らし―――――、ぽつりと呟く。
「そうだ。ぼくは狼に襲われて…………そのまま気絶してしまったんだった」
 そう自分で確認すると、今度はエフィーリアの方をじっと見詰める。
 あまりにも美麗な顔に見詰められて、年頃のエフィーリアは思わず頬に血が上る。
「貴女が助けてくださったんですか?」
 初めて聞く少年の声は、低さの中にもかすかにまだ少年特有の高さも残していた。森を吹き抜けていく湿った風のように、心地いい声音。
「はい。わたしはエフィーリア。そして、ここはエルフの森です」
 言われて初めて気付いたのか、少年はまじまじとエフィーリアを見詰める。
 エフィーリアは、自分が見つめられていることに羞恥を隠せなかった。
(やだ、見詰めないで…………)
 かわいらしい少女の恥じらいである。エフィーリアとて、恥じるところなどどこもない人形のような美少女であるのだが、本人はそんなことは一切自覚していない。
「あ、これは失礼。女性を見詰めるなんて失礼なことはしてはいけませんよね」
 エフィーリアの様子を見て、慌てて少年は視線を外す。そして、気を取り直して名乗る。
「ぼくはシリウスです。助けてくださって、有難うございます」
 エフィーリアのベッドの中で、軽く会釈する。
「いえ。何事もなくて何よりでした。どうぞゆっくりしていってくださいね」
 ようやくエフィーリアの心臓の動悸は大人しくおさまり、普段の自分を取り戻す。
「何もないところですが、どうぞゆっくりなさっていってください。ただ一つお願いがあります。この家の外には決して出ないで下さい。エルフの森に人間を連れ込むことは禁忌とされています。貴方の姿を見られてしまえば、貴方もわたしもただでは済みません。最悪の場合、わたしは追放、貴方は……殺されてしまうかもしれません」
 そっと目を伏せて、エフィーリアは言う。
 シリウスは目を見開く。
 そして、小さく頷いた。
「わかりました。そんな危険を冒してまで、ぼくを助けてくださったのですね。本当に有難うございました」
 そう言って微笑んだシリウスの笑顔は、それはそれは綺麗で、思わずエフィーリアは見惚れてしまう。

「どうかしましたか?」
 シリウスの言葉にエフィーリアは我に返り、赤面した。
「いえ、失礼しました。家には何もありませんが、どうぞ体調が回復するまでゆっくりしていってくださいね」
 恥ずかしさのあまりそれだけ言い捨てると、エフィーリアは慌てて自分の部屋を出て行った。

 

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