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 その後しばらくシリウスはエフィーリアの家に滞在していた。
 シリウスはベッドから起き上がる気配すら見せず、何を考えているのかずっと横になったままだった。時々うなされるような声が聞こえてきたりもして、エフィーリアは心配になって、1日中片時もシリウスのそばを離れなかった。
 エフィーリアがそっと側に寄ると、シリウスはその気配を敏感に察知してぱっちりと目を開けた。そしてエフィーリアの方を見る。
 鮮烈な蒼に射すくめられて、思わずエフィーリアは立ちすくむ。なぜかいけないことをしてしまったような気がして、気が付いたら「ごめんなさい」と小声で謝っていた。
 するとシリウスはきょとんとしたような顔をして静かに首を横に振った。そして静かに微笑む。
 その笑顔に安心して、エフィーリアはベッドの脇によって、膝を付いた。
「大丈夫? うなされてたみたいだけど」
「大丈夫だよ。有難う」
 敬語が、普通の言葉に代わる。「少しは仲良くなれたのかな?」と、エフィーリアはうれしくなる。
 彼女が「人間」という生き物を見たのはこれが初めてだった。
 この閉鎖的なエルフの森に訪れた、異世界からの突然の来訪者。時間が止まったままのような変化のない毎日に、シリウスは突然エフィーリアの日常に紛れ込んできた。本当ならば、永久に今までのような生活が、変わりなく単調に続いていくはずである。このエルフの森に部外者が入ってくることなどまず有り得ないし、またそこから自分が出て行くことも有り得ない。
 本来なら起こり得るはずのない突然の出来事に、エフィーリアはどきどきを抑え切れない。
 何だか楽しいことが起こるような気がする。
 そんな気がしていた。

 シリウスはエフィーリアがくっついて離れなくても嫌な顔一つせず、様々な外の世界の話を聞かせてくれた。
 エルフの森の広さなんて世界全体から見渡せば夜空に無数に浮かぶ星のごとくに小さな存在で、外界には王国といわれ王様が統治する国がたくさんあること。草原とか海とか砂漠と かいろんな土地があること。それぞれの場所でそれぞれにたくさんの人たちが様々な思いを抱えながら、大切な人のために働き、愛し、日々を精一杯生きていること。海には船という大きな乗り物があること。王宮にはお姫様や王子様や、貴族の人たちが着飾って舞踏会を開いたりして、それはそれは豪華絢爛な世界があるということ。魔法が使える魔道士という人たちがいること。などなど、数え切れないくらいにたくさんの話をエフィーリアに聞かせてくれた。
外の世界をまったく知らないエフィーリアにとって、シリウスの聞かせてくれる話は本当にどれもがおもしろいものばかりだった。どれも長老様たちから聞かされる伝承にしか出てこないような世界。その世界から来た人が、その世界のことを自分に話して聞かせてくれている。
 エフィーリアは感動する。そして、強い憧れを抱く。「いつかは自分も外の世界に出たい」と。それは叶うことが許されない望みだとわかっているだけに、余計に胸を焦がすような憧れは強くなる。
 瞳を輝かせて話に聞き入るエフィーリアを、シリウスは微笑ましげに眺めていた。

 

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