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空の色が変わってゆく。
シリウスは、もう17年も砂漠で生きてきたにもかかわらず、夜明けの空を見るのは生まれて初めてだった。
はじめは気のせいかと思った。
しかし、色の変化は、少しずつ起こっていたようだ。というのも、気が付けば空は、濃紺から鮮やかな透明な蒼に変わっていたからだ。
これが砂漠の夜明けなのだと、感激を覚える。
空気の温度は夜よりもさらに冷たい。もう春だというのに、まるで真冬並みの寒さである。「念のためにマントをもってきてよかったな」と思った。
シリウスはこの砂漠の夜明けを見てふと思った。
気が付かないくらいに、少しずつ少しずつ、明けてゆく砂漠の夜のように、きっと自分が抱えている闇も、少しずつ明けてゆくのではないかと。それこそ気が付かないうちに少しずつ。
まだ、自分は夜に突入したばかりだけれど、耐えて、待てば、いつかきっと夜は明ける。
そう、信じたいと思った。
(どうか……ぼくにも早く夜明けが訪れますように……)
完全に太陽が地平線から顔を出して、砂漠全体を紅に染め上げるとともに、シリウスが抱えていた底なし沼のような恐怖も綺麗さっぱり払拭される。
(これでようやく眠れる………)
一気に湧き上がる安堵感と、なんともいえない幸福感。
シリウスは馬から下りて、砂の上に横たわった。朝日を眺めながら、その安堵感のうちにまどろみ、すぐさま押し寄せてきた心地よい眠気にそっと身を任せて、幸せを感じながらゆっくりと目を閉じた………。