16
シーリスは自分の部屋に戻った。
椅子に座り、机の上に黒い布を広げる。おもむろに水晶球を取り出して、まるでそれそのものが精緻な芸術品のような銀の台座にのせる。
そして、強く念じる。シリウスの行方を映し出すように、と。
現れる変化の一瞬たりとも見逃さないようにしようと、シーリスは精神を澄んだ大気のように透明な水晶球に集中させ、ひたすら凝視する。
しばらくすると、水晶球の中に白い靄のようなものが現れる。
すると、シーリスはさらに目を凝らす。
一瞬でも早くシリウスの行方を知りたいという焦り。
白い靄が徐々に明確な像を結ぶ。
シーリスは水晶球の映し出す映像に見入っていた。
水晶球が映し出したのは、シリウスの旅立ちの様子だった。
時間はどうも夜らしい。シリウスは、窓の外の砂漠を、苦渋に満ちた面持ちで眺めていた。思いつめている雰囲気が、水晶越しに伝わってくる。もう過ぎた出来事だというのに、現実感をともなって感じる。
(………………王子………)
シーリスはシリウスの苦悩を思うと、胸が痛んだ。
「何も考えていない」とはじめは腹が立ったが、この顔を見て誰がそんなこと言えようか。
(ここまで思いつめてらしたなんて……一番近くにいて何も気付かなかったなんて……!)
「わたしは従者失格だな」
唯一心を許す王と王妃の大切な息子の気持ちを自分は汲んでやれなかったのだ。
それどころか、追い詰めて、出奔させた。
自分がシリウスを責めるのはお門違いというものである。
―――――悪いのは、すべてわたしだ………。
「信じて……くださっていたのに……!」
―――――貴方様の大切な息子を―――わたしは………!
「必ず、わたしは王子を見つける」
この世で一番大切な王と王妃のために――――――。
……………たとえ、この命が潰えようとも。
シーリスは夜になるのを待って、ひっそりと行動を開始した。誰にも見つからないようにこっそりと自分の栗毛色の愛馬を連れてきて、王宮の裏から外に出る。
夜の砂漠に煌々と月が光を投げかけている。果てしなく広い砂漠。
しかし、シーリスは躊躇しなかった。
少しでも早くシリウスを見つけなければという焦燥が、シーリスから恐れも何もかも奪い取っていた。
シーリスは愛馬に跨ると、一思いに真夜中の砂漠に飛び出す。
何かに憑かれたかのように、ただひたすら馬を駆る。
シーリスは、自分がこの事態を招いてしまった以上、愛する王と王妃のために、何としても―――たとえ自分の命に代えてもシリウスを無事に王宮に連れ戻す所存だった。