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 あの旅立った夜、しばらく馬で駆けて王宮からある程度はなれたところでシーリスは、水晶球を覗き込んで、遠見した。まだ残されているシリウスの気を感知し、大体どちらの方角に向かったのか当りをつけて、ひたすら追ってきたのだ。しかし、その気配は微弱で、いくら宮廷僧侶のシリウスと言えど、シリウスがどこに向かっているのかはっきりとは感知できなかった。厩を見るとシリウスの白馬がなくなっていたことから、シリウスもまた馬で砂漠に出たことが予想された。いくら追いかけるとはいえ、相手も馬。たかが一日であまり進めないとはいえ、やはり馬は馬だ。シリウスと自分の距離はもう、シーリスの探知すら及ばないところまで来ていたのだ。
 仕方なく、シーリスは馬をとめ、馬から下りてそのまま砂の上に座る。そして、荷物の中から黒いビロードの布に包んだ水晶球を取り出し、布を下に敷いてその上に水晶球を置く。
 水晶で行う遠見は、精神力を使うため、本来ならばあまり行いたくはなかった。遠見を行って莫大な精神力を使う結果、眠らなければならないならば、その時間はシリウスを追うことに使いたい。しかし、おおよその方向だけわかったところで正確なシリウスの居場所を突き止められはしない。それならば、速度は遅くなっても、水晶球で正確にシリウスの行き先を探知しながら進む方がよほど効率的だし合理的というものである。
 そんなこんなで、夜暗くなると一晩中かかって水晶球で遠見をし、その反動で日の出ともに太陽が中天を過ぎるくらいまで泥のように眠り、それからようやく行動を起こし、夜になるとまた水晶で遠見をして……というような、非効率極まりない毎日を、ここ一ヵ月の間ずっとシーリスは送っていた。
確実にシリウスとの距離が離れてきているのは明白だった。日を追うごとに、水晶球をもってしてもシリウスの気が微弱になってきている。
 問題が深刻すぎてため息すら出ない。
 今日もまた弱くなった。
(本当に、どうしたらいいんでしょうね?)
 自問自答するも、どうしようもないということくらいわかっている。しかし、わかってはいても自問自答せずにはいられないくらいにやるせないのだ。四方八方塞がりであまりのどうしようもなさに泣きたくなるが、それでも泣けないくらいに自体は深刻であった。
「本当に、どうしたらいいんでしょうね―――」
 半ば諦めを含んだ声音だった。
 しかし、どうしようがなくても、今は自分にできることをするしかなかった。
 暗い気持ちを断ち切るように、シーリスは頭を強く振って、立ち上がる。
 自分の睡眠を削ってでも、早く進もう。
 もう限界だと言うことがわかっていた。あと少しでも、シリウスとの距離を明けられてしまえば、水晶球をもってしてもシリウスの行方はつかめなくなる。
 本当なら身体の弱い自分が無理をするのは命を削ることになるのだが、自分の命よりも遥かに王と王妃の方が大事だったから、躊躇なくシーリスは決めた。
 なんとしても、シリウスを見つけること。
 とにかくシーリスは必死だった。自分の命すら頭に掠めないほど王と王妃のことが大切で、だからこそシリウスを必ず見つけなければならない。そのことしか今のシーリスにはなかった。

「行こう」

 シーリスは水晶の遠見の後、必要な睡眠すらとらずに馬に乗り、駆け出した。

 

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