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リィザは走っていた。
――――――お姉様…………お願い、生きていて………!
リィザは声を上げて泣きながら走っていた。 涙で前が見えない。 果てのない草原に、まさか人なんているわけがなかった。
どうすればいい?
自問自答する。 姉を助けたい。でも、こんなところに人なんているはずがない。 わかっていた。でも、万が一の奇跡を信じて、リィザは走る。それこそ全力疾走だ。 草に足をとられて転んで、身体中が傷だらけになっても、自分の命よりも大切な姉を救いたい一心でリィザは走り続ける。 転んだ痛さや、身体の訴える痛み、そして疲労など気にもならない。そんなものは姉の命を目の前するとほんの些細なものでしかなかった。 もちろん身体はとうに限界を超えている。お城育ちの姫に大した体力があるわけがない。それでもリィザは走る。 身体の感覚などとうに飛んでいて、今は痛みも疲労も何もかも感じない。もしかしたら、感じているのかもしれないが、「痛い」とか「疲れた」と思う感覚は麻痺していた。それよりももっともっと、遥かに姉の命の方が大切だったから。 無我夢中。 ただ、姉を助けたい一心で、走る。
本当は逃げたくなどなかった。 足手まといだと、自分には何の力もないとわかっていても、戦いたかった。何の力もなくても、命くらいは差し出せる。
―――――お姉様の命を、自分の命をかけてでも守りたいと思ったのに。
それでも、姉は「生け」と言った。わかっている………、
――――――お姉様は、死ぬおつもりだった。
自分の命を懸けて、私の命を―――――。 そんなことされて、私が幸せになんてなれるはずないのに。
姉が自分に何を望んでいるかなど、はっきりとその口から聞かなくてもわかる。なぜなら、自分も姉にたった一つ望んでいることがあって、そしてきっとそれは、今やお互いたった一人の肉親となってしまった以上、同じものであると思うから。
涙が吹き零れる。 助けたかったのに! どうして? ―――――今度は、お姉様まで失うというの……!?
姉の瞳を見て、戦慄を覚えた。 姉は、死ぬつもりだと一瞬にしてわかってしまった。 姉妹だから。 ずっと、ずっと、一緒にいたから……わかってしまった……。 でも、それ以上に姉の瞳は「生け」と言っていた。有無を言わさぬ、逆らうことを許さない、揺るぎのない強い強い意志。 そんな瞳を前にして、誰が否と言えようか。 あれは、命令―――――すべての生への希望と想いを込めた、他ならぬ私への渾身の祈りだった……。
想いよりも先に身体が動いていた。 他にどうすることもできなかった。 だから―――――、
お願い。生きていて…………。
「神様―――――――――どうかお姉様をお守りください………!」
今度は私がお姉様のためにもてる生の力すべてをかけて祈る。 渾身の力を、想いをこめて、リィザは泣きながら天に祈り、訴えた………。 |