しかしやがてエフィーリアの願いは、時間が過ぎるにつれて悲願に変わる。
たしかに、シリウスとすごす時間は幸せだ。
でも、幸せすぎて、彼を失うことが怖くなる。
シリウスと一緒にいるのに、なぜか愛しくて、哀しくて………。
そう―――――別れの時間は刻一刻と迫っているのだ。
その思いに囚われて、シリウスといるにもかかわらず、次第にエフィーリアの表情(かお)から笑顔が減っていった。
そしてある日、その想いが堪え切れなくなって、涙となって頬に滑り落ちる。
シリウスはやっぱり優しく微笑む。
「また泣くー。エフィーリア」
シリウスはその手でエフィーリアの頭をそっと撫でる。
それは、エフィーリアが泣き出したときのいつものシリウスの癖だった。
(やだ。まただ………)
幸せなのに、胸が切なくて。
優しくその暖かい手で撫でられると、触れられてる部分が、熱を持ったように熱くなる。触れてもらえることが、幸せすぎて………。心臓がどきどきしてる。
でも。
今はこうやって彼の体温を感じるこの暖かい手に、もうすぐ永遠に触れることが叶わなくなる―――――――。
途方もなく大きな恐怖が胸に突き上げる。
シリウスを失うことを考えただけで、胸に鋭い痛みが走って、この脆い心はいとも簡単に壊れてしまう。
その日が訪れたとき……きっと間違いなく自分は生きてゆけない。
(いやだ………行かないで…………!)
ずっとここに―――――。
そんなこと、言えるはずもなくて。
行き場のない想いだけが、エフィーリアの中で荒れ狂っていた。
叶わない願い。
どうしても叶えたい願いだけは、どうして叶わないのだろう?
ただ、自分には願うことしかできなくて。
でも、願ったからって願いは叶わない。
わかってる。
自分は、エルフの森を死ぬまで出ることはない。そして出ることは許されない。
そして、シリウスは外の世界に生きる「人間」。ここに留まることは許されない。
いづれ、別れの日は来る。
そして、永久に逢えなくなる―――――。
あの鮮烈な蒼の瞳を見ることも、あの笑顔を見ることも、できなくなる。あの暖かい手は、もう二度と自分に触れられることはなくなる…………。
彼を失うことがこの世の果てみたいに怖くて。
奈落に落ちていくような恐怖。感じる恐怖は、果てし無く、深くて、自分が闇に呑まれてしまいそうで。
寂しくて………寂しすぎて―――――死んでしまう。