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 そして事件は突然起こった。
 ある日突然最長老に呼び出されたエフィーリアは、なぜ自分が呼び出されたのかを疑問に思いながら最長老の住居を訪れた。彼女が「何でしょうか?」と言うと、最長老は真っ先にこう言ったのだ。「今夜、おまえの処遇をめぐって最後の長老会議が開かれる」と。
 心当たりがありすぎて、エフィーリアの顔からは見事に血の気が失せる。
もうすでに自分の行為はばれていたのだ。
これから起こるであろう最悪の事態を予測して、顔面を蒼白にして小さく震えている少女に、しかし最長老は優しく言った。
「おまえの気持ちはよくわかる。エフィが優しい娘だということは、父親代わりだったわしがよくわかっているとも………」
 そう言った最長老の声は予想していなかった慈愛に満ちたもので、はっとエフィーリアは顔を上げた。
 その何とも言いようのないほど優しい笑顔から、エフィーリアは最長老がどれだけ自分のことを愛しく思っていてくれたかを知り、思わず涙が溢れそうになる。
 涙に潤んだエフィーリアの瞳(め)を見て、最長老の顔は普段であれば絶対に見せないような苦痛に満ちた表情に歪んだ。
 最長老は怒っていない。それどころか、自分のことをこんなにも心配してくれている。
 その想いがうれしくて、エフィーリアは声をあげて、最長老の胸に飛び込んだ。
 つらくて、つらくて、今までたった独りで抱え込むしかなかった思いが爆発して、育ての父の胸の中で、エフィーリアは大声をあげて泣いた。
 いろいろな感情がごちゃまぜになっていた。
 初めて愛しいと思った人とはもう永久に別れることの恐怖とか、自分は追放されてしまうかもしれないという恐怖とか、シリウスが殺されてしまうかもしれないという恐怖とか、とにかく様々な種類の恐怖が混沌として、奈落の闇にエフィーリアを呑み込もうとする。
 ただ、エフィーリアはすべてが怖かった。
 何もかも。もう、何も理性では考えられなくて、でも、心では「恐ろしいことが起こる」ということだけはわかっていて。恐ろしいことが、たくさん起こる。

(怖い――――――。助けて…………)

 これから先、自分がどうなってしまうのか。
 自分が闇に呑まれようとしていることだけは本能で感じ取っていて、だから余計に怖くて怖くて、誰かに助けてほしくて。
 この深く底のない真っ暗闇から手を差し伸べて光の世界へ引っ張りあげてほしくて。
 ただただ、エフィーリアは最長老の胸にしがみついて大声でわんわん泣いた。
 最長老は、エフィーリアの背負っているもののすべてをわかっているかのように、
「大丈夫。大丈夫。エフィーリアは大丈夫」
 ただ何度もそう繰り返す。
 優しくエフィーリアを身体全身で包み込み、まるで子供をあやすかのようにぽんぽんぽんと背中をたたく。
 最長老の言葉は、母の子守唄のように、不安で仕方のない心に深く深く、まるで曇り空からさす一筋の陽光のように、エフィーリアの心に届く。
 ひどく安心する声――――――。
 ゆっくりと朝日が夜明けの世界を暖かく照らし出すように、エフィーリアの心も徐々に平安を取り戻してゆく。
 不思議とエフィーリアは冷静だった。
 ひとしきり泣いたからかもしれない。
 そして一つだけ、エフィーリアは誓う。
(もう、二度とシリウスさんとは会わない)
 エフィーリアはぽつりとつぶやいた。
「最長老。シリウスさんのことを、どうかよろしくお願いします」
 詳しく話さずとも、その一言で最長老はすべてを理解する。
「わかった。無事、彼を外界に逃がそう」
 そう、約束してくれる。
 それだけで、ひどくエフィーリアの心は安堵した。
 そう、これで、いい。
 たとえ自分が追放になろうとも、彼さえ生きてくれるのであれば、それで―――――。
 自然とエフィーリアは穏やかな表情(かお)をしていた。
 最長老はその表情(かお)を見て、小さな声でぽつりとつぶやく。
「エフィーリアは恋をしたんじゃな………」
 エフィーリアを見詰める眼差しは、まるで陽だまりのように暖かかった。

 

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