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「お母さん……ごめん、わたし、森を追放になっちゃうかもしれない。今夜、最期の長老会議があるんだって」 泣いてはいけない。自分に強く言い聞かせて、エフィーリアは母に事実のみを淡々と告げるように努める。 「エフィ………」 母の目に、涙が溜まる。そんな母の顔を見て、エフィーリアは不覚にも涙腺が緩みそうになるが、ここで自分まで泣いてしまえば余計に大切な母を心配させることになる。わかっているから、死んでも泣くまいと喉に力を入れて溢れそうになる涙を必死で堪える。 「お母さん、ごめんね。独りにしちゃって………」 声が掠れる。果たして母は気付いただろうか? (泣いちゃ、だめ………!) 「わたしは平気。でも、お母さんを独りにしてしまうことだけが心残りで。本当にごめんなさい」 母を心配させたくない一心で溢れそうになる涙を必死で堪えているせいで、エフィーリアの目は充血していた。 母はそんな娘に気付いていた。母であるがゆえに。 母はエフィーリアの優しさを何よりわかっていたし、今のエフィーリアの気持ちもすべて手に取るようにわかってしまう。そんな健気な娘の姿に、余計に涙が溢れる。 エフィーリアが愛(かな)しくて………。 「わたしのことを想って我慢なんてしなくてもいい。わたしたちは母娘(おやこ)なんだから………」 母は、娘のように涙を抑えようとはしなかった。泣きながら、愛しい娘に言う。 その母の言葉に自分の努力は無駄だとエフィーリアは知る。 母は、こんなにも自分のことをわかってくれている―――――。 血を分けた母の前では、我慢は不要なのだ。 「遠慮なんてされたら、お母さんは悲しいわ」 「つっ…………」 愛情の溢れる言葉に、ついにエフィーリアの涙腺は壊れた。涙が堰を切って溢れ出す。涙とともに今まで抑えていた感情も一気に封印を解かれて暴走する。 つらくて、つらくて、涙とともに漏れる嗚咽。小刻みに震える肩。 エフィーリアはその場で蹲(うずくま)る。 少女は、身体全身で心の痛さを表していた。 母は、そんな娘をただ見守ることしかできなかった。
「ごめんね。お母さん、何もしてあげられなくて」 涙ながらに言う母に、エフィーリアは首を振る。 「お母さんには、本当に感謝しつくしてもしきれないくらいに感謝してるし、この世界の中で一番愛してる」 「エフィ………」
「大好きよ。お母さん」
そしてこの夜、長老会議でエフィーリアの追放が決定する。 エフィーリアがシリウスと出会って、ちょうど1ヶ月目の出来事だった―――――。
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