2 フェオラとバーリス導師はリィザたちよりも一足前にすでにセイルス国に着いてそして―――――「夢見る肴」亭にいた。 「なにぃっ!? イスハルーン帝国の第一王子が国を出て出奔中だと!?」 と、パブの内部全体に響き渡るような大声で叫んだのはフェオラである。「姫様、落ち着いて…」とバーリス導師は宥めるも、無意味である。パブにいる客の一人一人に執拗な聞き取りを始めてしまったフェオラを止められる者はここにはいなかった。 「はあっ!? どこの国にそんな馬鹿なガキっぽい王子がいるって言うんだよ!? 世間知らず、純朴もいいとこだよ。仮にも一国の王子で、帝王学学んでるなら自分の行動がいかに身勝手なものかなんてわかるものだろうがよ…」 だれに話を聞くも同じような情報しか得られず、一番情報に詳しそうなパブの女将サリサに聞くも、「それ以上のことは知らない」と言われるばかりだ。
そして、その夜のこと。フェオラとバーリス導師は「夢見る肴」亭の一階で今後のことを打ち合わせつつ、食事を取っていた。その時、見覚えのある顔が視界の隅に入った。そう、たしかあの銀髪の青年は―――――、 「いつかのイスハルーン帝国の使者の方……シーリス・トゥオ・イーシャさん、ですね?」 フェオラは彼のいるテーブルまでつかつかと歩いてゆき、ばんっと両手をついた。 「一体これはどういうことか、説明していただけますよね?」 そう言って、深い紺碧の空を思わせる瞳を覗き込んだ。口調こそ丁寧であるが、否定は許さぬ無言の圧力がそこにはあった。 「―――――はい、すべてお話しいたします」 覚悟を決めたのか、青年は被っていたフードを脱いで、フェオラとバーリス導師を目線で席に座るように促した。
「この度は、自国の家臣の独走のせいで、このような形で巻き込んでしまうようなことになってしまいまして、本当に申し訳ございませんでした」 フェオラは、冷たくそんなシーリスを一瞥する。 「―――――じゃああんた、命で贖ってくれるか?」 そう言って、いつの間にそんなところにいたのか、フェオラはシーリスの目前まで迫り、護身用に携帯していた小刀の切っ先をシーリスの喉元に突きつけていた。 「そ……それだけはどうか……勘弁してください」 シーリスは震える声でそういうのが精一杯だ。 「―――――それくらいの覚悟もないなら、金輪際謝罪など軽々しく口にするな。一切、だ」 それ以上、シーリスは何を言うこともできなかった。
「罪を償うべきは、断罪されるべきは、そのジールとやらだろう。いいだろう。この私が力を貸してやる。その首掻っ切って、身体中をばらばらにして烏にでも禿鷲にでもくれてやる」
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