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 リィザとリザはその頃大通りにいた。相変わらずリィザは初めて見るものばかりの連続で感動続きだった。
(まあ、わからなくもないけれどね)
 だって、あたしだってこれだけのいろんなものを見るのは初めてだもの。
 内心浮き立つ心をリザもまた同じように抑えることは出来ないでいた。さすが「大陸の華」と呼ばれるだけはある華やかさ、規模だ。
 隣で相変わらずはしゃいでいるリィザを見て、他人事ながら心配になる。
(これからあんた、どうやって生きていくつもりなの?)
 声には出さないで内心でつぶやく。
 見るからに温室育ちのお嬢様。それもかなりいいところの。今着ている衣服はずたぼろだが、その布がどれほどの価値のものかリザにはわかる。
 これだけ甘やかされて育ったお嬢様が、なぜかこのような無残な出で立ちでいること自体わけ有りだ。おそらくかなり深刻なことであろうことくらい容易に想像がつく。
 絶対にこの世間をわたって生きていけるだけの力も技術も技もないに決まっている。そこに、普通であればいるはずの、守ってくれる人もなぜかおらず、そこに体力もないし、お金もないときた。
 いい娘(こ)だということは、話していれば大体はわかる。世間知らずな上に、純粋。でもそこはお嬢様で、無闇矢鱈にプライドばかりが高いが、まあそれはそれ、甘やかされて育った証拠であろう。憎むべき要素にはなりえない。世の中の男には、こういうのが好きな輩もいるんだろうなと思う。
 それでも、それだけでは生きてはいけないのだ。
(はー……)
 まだ逢ってから少ししかたっていないが、もう娘のこのことを放っては置けないと思う。きっと、「もう大丈夫だ」と安心できるまで、何だかんだいいつつも面倒見ようと思う。
(あたしもつくづくお人好しよねぇ……)
 それでもきっと、おせっかいを焼いてしまう何かがこのリィザにはあるのだ。きっと、だれもが放っておけない要素がきっと。
 自力で十分強く生きてゆける自信のあるリザは、たまにこのリィザのことが羨ましくなることがある。

(どーせ、あたしのことなんてだぁれもかまってくれないしね)

 と、心の中だけでいじけてみるけれど。実は結構一時期真剣に悩んだことがある。


「ねえ、みてみてっ。リザ、あの衣装きれーい」
 そう言ってリィザが指を差す先には、リィザが好みそうな薄手の淡い水色の清楚なドレスがあった。身体の線を強調する風なものではなく、流れる曲線はあくまでも川の流れのように自然なシンプルなもの。しかし、すそは幾重にも薄いシフォンが重なっていて、淡い水のように透明感のある美しさだ。
「あたしには一生縁がないわね」
「そんなことないわよー。舞踏会とかで着られるじゃない」
(次元がちがう……)
「やっぱりあんたってお嬢よね……。あたしは舞踏会になんて出たことがないわ」
「え、そうなの? じゃあ今度私が呼んであげるか………あ、ごめんなさい。もうそれはできないんだったわ」
 そしてリィザは物寂しげに微笑んだ。
「貴女でも……そんな顔をするのね」
 ポロリと漏らした言葉に、リィザは抗議する。
「それってあんまりにひどいわよー! そりゃあ……私にはいろいろあるもの」
「そうね。みんな何かしら、いろいろ抱えて生きてるわ……」
 ふっとしんみりとした空気が二人の間を襲う。

「あぁー! だめよだめだめ。こんな空気あたしには合わない! さあ、それよりもあんたの服、それ、なんとかしなきゃね」
「え?」
 言われて初めて気づいたように、リィザは己が姿を見て、今の自分がいかに目も当てられない格好をしていたのか思い出す。
「きゃーーーーーーっ!」
「何? 今さら気づいた? ってか忘れてた?」
 思わずリザは笑いを零す。
「笑わないでよ………どうしよ、すっごい恥ずかしい!」
 本人にとっては一大事であったのだが、それをいとも簡単にリザは笑いで流す。
「え? 今さらじゃないの。ダイジョウブよ。どーせあんたのことなんてだぁれも見てないって」
「………その言い草もひどい……」
「はいはいはい」

 不貞腐れているリィザは放っておいて、さっさとリザは近くの服売りに、当たり障りのない女の子用の庶民の服、それも動きやすそうなものを見繕って買った。
「さ、行きましょ。どうやらこのセイルス国では「夢見る肴」亭がとっても有名らしいから、そこでいいでしょ。こっからも近いみたいだしね」
 と、勝手に決めてさっさと歩き出す。リィザは「ちょ、ちょっと待ってよー!」と慌ててついてくる。普段はつんと澄ましていても、根が素直なのはわかっているから憎めないし、こういうところが放っておけない要素なんだろうな、などと関係のないことをリザは考えていた。

 

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