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 シーリスとフェオラ、そしてバーリス導師が今後のことについて「夢見る肴」亭で打ち合わせをしていたときのことだった。

「ちょ……ちょっとリザ。やだって! こんなにいっぱいの人がいるところにこんな格好で入るなんて!」

 聞き覚えのある声だな、とフェオラは思い至り、はっとして戸口の方を振り向いた。そしてそこに、見慣れた姿―――――捜し求めてやまなかった愛しい妹の姿を見る。


「―――――リィザ!?」


 その声に弾かれたようにリィザは店内を見回す。そしてやはり、同様に捜し求めてやまなかった愛しい姉の姿を認めると、大声で力の限り、叫んでいた。


「―――――お姉様!」


 その声は、甲高くてまるで悲鳴のよう。
「うわあああああん! ―――――おねえさまあっ!」
 大勢の人がいるにも関わらずに、大声で泣き叫んでがばりとフェオラに泣きつくさまは、まるで迷子が母を見つけて泣く幼子そのものののようだった。


 自分に抱きついてわんわんと泣くリィザを眺めながら、真っ先にフェオラが思っていたことは、―――――また生きて会えてよかった、ということだった。
 会えたうれしさよりも、生きていてくれたことのうれしさの方が勝った。愛しい妹が元気でいてくれたこと。それが何よりもうれしい。
 涙は出てこなかった。ただ、安堵した温かで穏やかな感情だけがそこにあった。ゆえに、リィザほど余裕をなくすことも、取り乱すこともなかった。
 ふっと戸口の方を見ると、憮然とした表情で立っている少女の姿があった。この少女のおかげで、リィザはここまで来ることが出来たのだなと直感する。
 なおも泣いてしがみついてくる小柄な身体をそっと引き剥がして、バーリス導師に預ける。そして、ゆっくりと少女の前まで歩み寄る。
 真っ直ぐと見つめてくる赤茶の瞳を、真っ直ぐと受け止める。
 すると、その少女は嫣然と微笑んだ。

「お姉様の方は、リィザと同じような出で立ちであられても平気なんですね」

 その言葉に、普段滅多に笑うことのないフェオラも、さすがに「やられた」と思って笑った。久々の笑いだった。

「周りなんてどうでもいいからな。リィザをここまで連れてきてくれてありがとう」

 フェオラの言葉にまた、少女は少女で吹き出す。そして言った。
「お姉さんはあの甘ったれのリィザとは随分ちがうんですね。あたし、お姉さんとの方が気が合いそうだわ」、と。
 しかし、フェオラは怒ることなく笑って返す。
「ははは。本当に甘ったれで申し訳ない。なんせ世間知らずな温室育ちの小娘なものでな」
「さすがお姉様。よくおわかりで」
 そこで、二人は同時に吹き出した。何となく「同士」な雰囲気をお互いに直感する。フェオラも思う。「この少女とは気が合いそうだな」、と。そして同時に、この少女の秘めた強さも、いくつもの修羅場を潜り抜けてきた者の直感で勘付いた。見かけはただの平凡な非力な少女に見えるが、この少女はきっと只者ではない。
「私はフェオラ。貴女は?」
「あたしはリザ。よろしくお願いしますね、お姉さん」
 そしてまた、フェオラを前にしてこうして毅然と微笑むことの出来る者もまた、この一見のほほんとした平凡な少女が初めてだった。


 一方でリィザは、姉とリザが仲良く談笑している姿をバーリス導師のそばで見ていた。
(お姉様とリザならお似合いよ………)
 大好きな二人が仲良くなってくれたのだ。うれしくないはずがないのに、なぜか寂しかった。
 決して自分が入ることは出来ない領域。強い者だけがもつ、独特の雰囲気。そして、同士。
 今ほど「もっと強くなりたい」と思ったことはなかった。

 もっともっと強くなって、お姉様やリザと肩を並べたいのに。対等に、渡り合いたいのに―――――。

 それは今の自分では到底不可能なこと、今の自分では逆立ちしてもあの二人には叶いっこないことを身に染みて感じる。
 世間知らずで、甘えたで、独りでは何をすることも出来ない。生きていくことの厳しさに立ち向かうすべも強さももたない。―――――無力な自分。

 今こそ、リィザは決意する。
 もっともっと強く、大人になることを。
 姉やリザと肩を並べることのできる器の自分になることを。
 どうすればいいかなんて、今はまだわからないけれど。それでも、「絶対に、中身も外も強くなる」、と。


 「いつか」なんて嫌だ。早く、早く―――――守られるんじゃなくて………お姉様やリザと並んで立てるくらいに、自分の足で立て歩けるくらいに―――――強くなりたい………!

 

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