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 再会のあと、バーリス導師からお金をもらって改めてフェオラとリィザは庶民の服を―――フェオラは男物の動きやすい服を、リィザは女物の動きやすい上衣とスカートを―――買った。どちらも麻で出来た通気性のよい服だ。色はそのままの自然な麻の色。
 リザは、「せっかく買ったんだからこれもあげる」と、不貞腐れた様子で先程買った衣服を紙袋に入れたまま差し出した。リィザが笑って「ありがとう」と言うと、「あたしはこんな女の子みたいなの着ないから邪魔になるだけだからよ!」とつんっとして言ったが、リィザは今ではそれが単なる照れ隠しだとわかっていたので、ただ黙って笑っていた。リザはそんなリィザの態度が気に食わなくて、「なに笑ってるのよー!」と怒鳴っていたが。
 フェオラは、腰のしたまである、高い位置で結い上げていた緋色の髪を、自らの小刀でばっさりと短く断髪した。もちろん、リィザもバーリス導師も、そしてシーリスやリザまでも、その豊かで美しい緋色の髪を切り落とすことに反対したが、フェオラは「売ればいいお金になるから」と言って譲らなかった。そして、「こんな身の上では、長い髪の毛は邪魔になるだから」とも、きっぱりと言ってのけた。
 そんなフェオラに、やはりリィザは「お姉様は強い」と感嘆してしまう。自分であればあそこまで潔く小さいころから大切に伸ばしてきた髪を切り落とすことなど出来やしないから。さすがのリザも、そんなフェオラの姿に「あんたのお姉さん、勇ましいわね」と賞賛の眼差しを送っていた。それはそれで、リィザは、リザにそんな眼差しをさせてしまう姉が誇りであったり、羨ましかったり、自分と姉の差に落ち込んでしまったりと複雑だった。そしてやはり行き着く先は、「強くなりたい」だった。


 フェオラはふと隣に立っているシーリスを見て、小声で話しかけた。ちなみに、大体フェオラとシーリスの身長は同じくらいである。
「あんたの肩書きと王子のことは、悪いが妹には黙っておいてくれないか。あれは………私のように割り切れないだろうから。だから、お前はイスハルーンから来た旅人ということにしておいてくれ。ジールの件だけは話してくれ。そして、お前のことは、ジールの独裁に憤りをもってジールを打倒すべく仲間を集めるために旅に出た、イスハルーンの一僧侶、という肩書きにしておいてくれ」
 フェオラの言葉にシーリスは神妙そうに頷く。なるほど、リィザの方は姉の方とは異なり、感情が豊かであるようだ。
「わかりました……」
「頼んだぞ」
 しかし、シーリスには一つだけ気がかりなことがあった。
「でも、わたしは王子を捜しているのですがどうすればよろしいでしょうか? フェオラ様もご協力してくださるんでしたよね?」
「ああ。それについては、あんたの行きはぐれたたびの仲間探しに協力することにした、ということでどうだろう?」
「―――――わかりました」

 

 一行の様子を遠くから鋭く見つめている人物がいた。フェイである。そのそばにはサリサの姿もあった。

「母さん。おれ、行ってもいい?」
「またあんたは! どうせ迷惑をかけるだけだろう。大きな国の間のいざこざに首を突っ込むもんじゃないよ! シリウスにもひどいことを言っておいて。今度あんなこと言ったら、いくら自分の息子だって言っても絶対に承知しないからね!」
 サリサは、本気で怒っていた。
「わーかってるって」
 しかし、息子は取り合う雰囲気もない。
「はーあ。どーせあたしが言ったって聞かないんだろう。勝手におし。もういいよ……あんたもザーシュも……みんな出て行っちまうんだから」
「母さん寂しいの?」
 そういうフェイの声には、からかいの色が混じっている。
「バカを言うんじゃないよ。どこに息子が出て行くことが寂しくない親がいるかい」
 母が涙声になってしまってもなお、フェイは動じる風もない。
「わーるかったって。絶対戻ってくるからさー。だってさあ、今後ぜぇぇーったいにこれほどおもしろそうなことないよ。一生に一度、あるかないか。だったら、やっぱり首突っ込まなきゃあね」
 そんな息子の様子に、サリサは諦めたように首を横に振った。
「どうせ言ったって聞かないんだから。好きにすりゃあいいさ」
「それさっきも言ったよ。母さん」
 邪気のない笑いに、サリサはもう返す言葉もなかった。
「もういいよ。さっさとお行き。あーあ、あんたに少しでもシリウスほどの純粋さがあったらねえ……」
 皮肉の一つでも言わなければ気が済まない。
「はいはーい。悪かったねえ。あれは純粋なんじゃなくて、単に世間知らずなおぼっちゃんなだけだよ。あんなのいらねー」
 相変わらず悪びれない息子の様子に、サリサは盛大なため息をついた。そんな母を尻目に、フェイは「んじゃ行ってきまーす」とひょいっと手を振って去っていった。
 あとには、サリサの盛大なため息が残るばかりであった。

 

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