2 悲鳴を上げる身体に鞭を打ってひたすら歩き続けて、旅立ちに際してエルフの職人が作ってくれた、動物のなめし皮でできた靴は、早くも擦り切れ始めていた。 地面は足場が悪く、枯葉やら枝が積み重なってでこぼこしていて安定せず、一歩ごとに足に負担がかかる。 エフィーリアの足の裏も、できたまめが潰れたり、足の爪が血で滲んでいたりと、足にもかなり限界がきていた。 始めは痛みを感じていた足も、慣れてくると痛みという感覚は麻痺するらしい。 感覚が麻痺してしまった足は、かえって歩きやすかった。 日にちが経つにつれて、始めは溢れていた感情もおさまった。 もう、考えてもどうしようもないことだと、ようやくわかったから、今はただ歩くことに全精力を注ごうと思った。 ひとりで何日も歩き続けているうちに、少しずつ旅の要領もわかってきた。 食事も、少しずつだが調理方法がわかるようになってきた。 家の台所しか使ったことのないエフィーリアだが、空腹が限界に達したときに、手探りで薪に火を起こして、その上に唯一もってきた大鍋(たき物煮物焼き物に使える万能鍋)を置いて、家でいつもやっていたのと同じようにキノコと食用の草を、調味料で味付けして、試しにスープを作ってみたら、ちゃんと同じようにできた。 味も美味しくできていて、それがエフィーリアの自信になった。 生き物は、限界が来れば、方法を知らなくても頭を使って創意工夫して何とか生き延びようとするらしい。 限られた水を有効に使うために水を節約することも覚えた。たとえば、単に茹でたキノコに塩だけで味付けしたものを作るとき、水を飲む前にキノコを茹でることに使うのだ。 幸運にも小川に遭遇したときは、水は何としてでも補給する。 水が尽きたときは、どんなに少しでもいいから、水を探す。そうすれば、その水の流れをたどってゆけば、必ず小川に遭遇する。 少しでも湿った葉は、火を起こすのには適切ではない。 初めて兎の屍骸に遭遇したときは、その屍骸はまだ新しそうだったので、怖かったけれど勇気を出して肉を焼いてみた。 エルフは肉食を戒められているのでてっきり肉は不味い物で、食べれば呪いがかかるに違いないと信じていたけれど、予想に反してその肉と肉汁は美味しくて、身体が芯から温まった。当然、呪いなどかかるはずもなかった。 旅を始めて時間が経つにつれ、こうして少しずつ、手探りで森で生きてゆく術を、エフィーリアは身につけていった。 守られてずっと幸せで生きていくのもいいけれど、こうして自分の力で自由に生きてみるのも悪くないかもしれない、と思い始めていた。 エフィーリアは少しずつ、何もできなかった自分よりも、何かできる自分が好きになっていった。 本当に少しずつ、蕾が花開くように、今まで大嫌いだった自分という存在が好きになり始め、自分に自信を持ち始めていった。 |