4

 

 どうやらそのまま眠ってしまったらしい。

 エフィーリアが目を覚ましたときに、すでに太陽が森を照らしていた。

 身体は楽になっていたので、熱は下がったらしい。

 

「あ……雨、やんだんだ……」

 

 ちょっとがっかりする。

 

「わたし、雨、好きなのにな。また見たいな」

 

 あの、閉塞したようなしっとりとした空間を、エフィーリアは好きになっていた。雨は、全ての生き物が息を潜め、普段は沈黙している森が息づく時間だ。水を浴びる木々は、本当にうれしそうだった。

 

「あなたたちも、雨が好きなのよねー? お日様ばっかりじゃ、疲れちゃうわよね?」

 

 笑いながら、お世話になった木に手を当てて話しかける。耳を太い幹にくっつけると、こぽこぽと音がした。

 

「あなたも、生きているのよね?」

 

 じっ…と耳を澄ます。

 

「この、こぽこぽって音は、もしかしたらさっきの雨かしら?」

 

 口を寄せて呟いた言葉は、そのまま木に反響し、響いて、まるで雨水が土に吸い込まれるように、エフィーリアの涼やかな声も幹にしっとりと吸い込まれていった。

 

「ありがとう。おかげで、とても元気になりました。また、わたしがこの森に帰ってきたときは、喜んでわたしを迎えてね?」

 

 エフィーリアは、愛情を込めて木に抱きついた。木が物質なのに暖かいのは、きっと木も生きているからだとエフィーリアは思う。

 

「……ありがとう。じゃあ、またね」

 

 最後にそっと木の幹に口付けて呟き、エフィーリアは木の下から外に出た。

 病み上がりの身体に、お日様の光はとても温かくて気持ちがよかった。

 

「晴れたー! よしっ、また行こうか」

 

 どこにつながっているのかはわからない。でも、必ず何処かへ繋がっている。この地面が、続いている限り。

 だから、行こう。

 

「わたしは、自由だから」

 

 エフィーリアは、真っ青の空を見上げて、そっと微笑んだ。エルフの集落の母を想いながら……。

 

back  top  next